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嘘つきの子

 ナルシストの親は、他人のことは一面しか見えていない。

 子供は親の内ヅラと外ヅラの違いを知っている。

 子供はそれを真似るようになる。

 「そんなこと言うもんじゃない!」

 人前で叱られる。
 言ってはいけないのだと思う。

 だから人前では嘘をつかねばならないと覚える。

 これを、幼い頃に覚える。

 そして子供は、外では友達にも恋人にも、全ての人に対して外ヅラで付き合うようになる。

 親の裏表が激しい。子供は区別するものなのだと覚える。子供は親の前でも本音を言えない。親の前でも外ヅラになり、親のことは外に出て本音を言う。

 本来は、おべっかを使ったり社交辞令を使ったりするのは大人だけであるし、更に友人や恋人にそんなことを言う必要はない。

 「形だけの付き合いをしなくてはならない誰か」に対して、する人もいるし、しない人もいる。

 一言で言えば、嫌いな人に対して行う付き合い方である。

 その程度のことである。

 だが、子供は内と外で違うことを言わなくてはならないのだ、と覚える。

 そして、友達の前でも本音を言わず、恋人ができても本音を言わず、誰彼構わずご機嫌を取るような「一般的に良い意味のこと」を言う子になっていく。

 そんなことは、自分個人の付き合いが始まったらやめてよい。

 親の前でだけしていれば良い。
 個人的な付き合い、自分の人生でまでそんなことをしたら、自分は誰とも友達になれない、愛し合うこともできない。

 常に「相手が気に入りそうなこと」を言って、嘘つきにならねばならない。

 「本当にそんなこと思ってんの?」
 「嘘くさい」

 「社交辞令を言っている」

 そんな風に見抜く人は、「この人は私とは仲良くしたくないんだ」と思って去っていく。
 「親しくなりたくありません」と言ってしまったようなものなのだから。

 それは、「親しくなりたくない相手」「心理的に関わりたくない相手」にだけするものである。

 仲良くしたい人は本音を聞きたい。
 本当に好きなものを知りたい。
 本当に嫌いなものを知りたい。
 本当にどう思ったのかを知りたい。

 だが、人前で「気に入られそうなこと」を言う事を求められたと勘違いした子供は、嘘をつき続ける。

 それが友達相手にやれば「嘘ばっかり言う子」になってしまうと知らずに。
 「良いことをしている」と勘違いして続ける。

 本音を言う子がいたら、母親に言われた通りに「そんなこと言うのは良くないよ!」と真似る。
 母親でもないのに、真似て友達を叱る。良いことをしていると勘違いしているから。

 本音を言ったら文句を言われるのだから、友達はその子に本音を言わなくなる。その子と同じように、その子に対する本音も他に行って言うようになる。悪口を言われるようになる。

 嘘つきの上に、性格の悪い嫌な子の烙印まで押される。

 実際にそうだから。

 「酷いことを言う子ね」
 「そんなこと言うもんじゃない!」
 「失礼でしょ!」

 意味もわからず叱られた体験が、後に影響を及ぼす。

 あっちの本音は向こうで言い、向こうに行ったら目の前のことへの本音は言わない。誰にも本音を言えない。

 誰とも親しくなろうとしない。

 そして、同じように形だけの礼節を重んじる「本音を言わない人」と形だけ仲良くなり、やがて結婚する。

 形だけ夫婦になり、形だけの結婚生活を送り、本物の子供を授かる。

 「ちゃんとした〇〇にならなきゃ」と思いながら。