まだ見ぬ友人へ

人を操作する人は、悪い結果を恐れている

まだ見ぬ友人へ

 君は知っているか。人を操作するという恐れ知らずの行動は、実は恐れ過ぎの行動だということを。

 人はわからないものが怖い。

 未知のものにわくわくする人もいるが、失敗が怖い人は未来が怖い。

 つまり、結果が怖い。

 人を操作する人は、悪い結果にならないように人を操作している。

 どうなるか知っているか?

 何をしているか知っているか?

 例えばこうだ。

 僕は君に嫌われるのが怖い。

 君に好かれようと思っている。

 だから僕は自分の意志を伝えない。

 まず君が何か言うのを待っている。

 君が何かを言うのを待ってから、それに合わせて良さそうなことを言う。

 君が気に入りそうなことを言う。問題のない、または当たり障りのないことを。

 これが「オウム返し」「二番煎じ」「やたら同意」などにつながる。

 君が「夏はやっぱりそうめんがいいよね。」と言う。

 すると僕は「そうだよね!僕も大好きで夏はしょっちゅう食べてるんだよ!」と言う。

 君が先に何かを言う。そして僕は「話ができそうなネタ」であると安心する。

 ほっとしてその話題を広げようとする。

 「そう言えば先週僕も…」と自分のそうめんネタを話す。

 君が喜んでくれると思うからだ。

 これが「人の話を横取り」「他人の話を自分に引き寄せる」と呼ばれる現象だ。

 もしいつもの僕ならば、こう聞く。

 「よく食べてるの?拘りとかあるの?」

 人の話は、人が話を広げられるように聞くものだ。

 自分の話を広げたら意味がない。

 人が話し始めたら、自分は相手が話しやすいようにするものだ。

 だが、「嫌われないようにする」人は、相手に話をさせない。

 君を喜ばせるために、僕は君が「ふってきたネタ」を広げてあげるのだ。

 君を喜ばせるために、「僕も同じだよ」と僕のことを話しているのだ。

 僕は常に君を待っている。

 君が何かをしようとするのを、君が何かを話し出すのを。

 嫌われないように、自分からは特に何も話すことなく黙って聞いている。

 君に嫌われないように、君のことを知ろうとする。

 気になることやわからない君のことを、君に聞く。

 あれこれ質問しては、「そうなんだ」と考える。

 だったら何を話せばいいかなと考える。

 これが「詮索好き」と言われる人だ。

 その時に相手が質問されて嬉しいことを質問しない。

 話題に必要なことを質問しない。

 ただ自分が知りたいだけの「相手の情報」を聞き出そうとしてしまう。

 失礼な人になってしまうのだ。

 僕は君に嫌われないように、まず君が決断するのを待つ。

 その場に応じて「臨機応変に」自分の意見を変える。

 出てきた結果に合わせて、君にとって都合のいい事が起きていたことにする。

 君にとって都合のいい事とは、僕が君に対して気に入られそうなことを考えていた、していたということだ。

 「僕は君にとって好かれるべき存在ですよ」と示せるように、君が何かを言った後から「どうしようかな」と考えて意見する。

 どう言えば好かれる答えになるかな、と僕は考える。

 「ちゃんと考えてから」意見する。

 君の答えを聞いてから、それを考慮して「どういうことにするか」を考える。

 君と険悪にならないよう、常にどんな結果が出ても「臨機応変に」対応できるよう、明言は避ける。

 もし君が訝しげに僕の答えに疑問を投げかけたら、君が安心できるような「理由を考える」のだ。

 こう言えば「良かったことになる」と思えることを言う。

 君がどんなことを言っても、考えても、常に僕は「君に気に入られる僕」だから君は安心だ。

 確実に、君に好かれる僕だ。

 結果が出てから「どういうことにするか」を考えるのだから、確実に安心だ。

 僕は常に「君が好きになるべき僕」になるから、安心だ。

 誰が安心って?君じゃないのか。

 僕と君が仲良くするために、僕は君の様子を伺いながら話を聞いているのだ。

 だから君のためだ。僕と君はそれで仲良くなれるのだから。

 君が僕と険悪になるんじゃないかなんて、微塵も思わないように「良い空気」にしてあげるよ。

 僕は常に後から言う答えを考えるため、君の様子を伺っている。

 その都度その都度、君の答えに合わせて「どう言えば良い会話になるかな」と考えて、最も良い会話になりそうな答えを僕は言っている。

 だから僕と君はとても仲良くなれるだろう。

 君が何を言っても僕が「仲良しの会話」になるように、フォローするのだから。

 「ちゃんと」うまく行っている会話にするから、大丈夫だ。

 君もそれで安心だろう。

 僕は君に好かれたい。だから君がネタをふってくれるのを、ちゃんと待っている。

 ちゃんと君に合わせていけるように、頑張るから安心してくれ。

 

 なに?

 僕は何を考えているのかって?

 僕は何が好きなのかって?

 僕は何がしたいのかって?

 「そんなこと、考えたこともなかった」

 なぜ君に好かれたいのかって?

 僕は君が好きだからさ。

 何が好きなのかって?どこが好きなのかって?

 君は面白いし、いろんな話をしてくれるし、君といると僕は楽しい。

 僕は君といて楽しいから、横でいつも君の話を聞いている。

 ちゃんと聞いているから、安心して喋っていてくれ。

 君がもし「僕に嫌われないか」「僕がつまらないんじゃないか」と心配しているならば、大丈夫だ。

 君が心配になって、僕に「君はこれ好き?」と聞いてきたら、僕は君の好きなものは好きだと言うから安心してくれ。

 君が安心できるように、君の好きなものは僕は必ず褒めるから。

 僕は君といると楽しいから、好きにしていていい。

 話を続けてくれ。僕は君の話を聞いているのも、君を見ているのも好きだから。

 好きな話をしていていいよ。僕はちゃんと聞いているから。

 これで、僕を好きになってくれるだろう?

 え?何?つまらない?

 どうして?

 君は君の好きな話をしているだろう?楽しいだろう?

 好きなことをしているんだから。

 その話がしたいんだろう?

 ちゃんと聞いているよ。

 返事もしているよ。君が喜びそうな返事をしているのに、なぜ気に入らないんだ。

 僕はつまらなくないから、安心してくれ。

 僕はその話がつまらなくないから、大丈夫だよ。

 もっと話していていいよ。僕は聞いているから。

 え?

 どうして自分の話はしないのかって?

 なぜ君と同じように自分について話さないのかって?

 それは、君に嫌われないためにさ。

 君に嫌われないために、まずは君の話をよく聞いて、君が好きなものや嫌いなものをきちんと把握したら、君に嫌われないような話をするよ。

 君が好きなものに合わせた話をするよ。

 君は好きに話していていいよ。僕は君を嫌いにならないから安心して。

 安心して君の好きな話をしていていいよ。僕はその後で「良い会話」になるように話すから。

 僕はそれで平気だよ。気にならないよ。

 何?つまらない?なぜ?

 好きな話をさせてあげているのに。何が気に入らないんだ。

 ちゃんと僕は喜んでいるから大丈夫だよ。

 自分の話を聞いてくれて、喜んでくれて、嬉しいだろう?

 君のこと楽しいって褒めてるじゃないか。

 君と仲良くしたいって言ってるじゃないか。

 何が気に入らないんだ。

 僕は君を見ているだけで十分だよ。

 だからずっと一人で喋っていていいよ。好きなこと話していていいよ。ちゃんと聞いているから。

 僕はいいよ。僕はそんなに楽しい話をする自信がないから、君の話を聞いてるだけでいいよ。聞いてるだけで楽しいから、平気だよ。気にしないで。

 これで僕たちは仲良くなれるね。

 僕がうまく反応してあげるんだから。

 

 さて、君よ、どう思った?

 僕を好きになるかい?

 ちなみに僕はこの手の人に何度となく言ったセリフがある。

 「俺はテレビやラジオじゃねえ。人間なんだよ。」

 君もこんな友人が欲しいかい?

 君の話を楽しいと言って聞いてくれて、君のご機嫌が良くなりそうな答えを常にくれる。

 どうだい?嬉しいだろう?

 絶対に君を嫌いにならないってさ。良かったな。

 「嫌いにならないから安心していいよ。」って。

 僕?僕はいらないよ。

 僕はナルシストではないのでね。人間と話すならば、会話がしたいのさ。

 「君は?」って聞けば、当然僕とは違う何かが飛び出してきて、さっき僕が話していたように自分の好きなことを嬉しそうに話す人がいい。

 僕が知らない楽しいことを、教えてくれる人がいい。

 そうじゃないと、イーブンにならないだろ。

 友達ってもんは、対等なんだからさ。

 ところで、君は気づいたかい?

 この会話だと、受け身な僕が君から見て「正体不明で安心できない」ってことに。

 何を考えているのかわからない。

 なんでも合わせてきて、一体なんなのかわからない。

 合わせたからいいってもんじゃない。

 「僕」という人は、君から見て他人なわけだからさ。

 人は不安が嫌いだ。

 だから安心させない人は嫌われてしまうんだ。

 この会話では、僕は君を安心させるために喜ぶことを言おうとしていた。

 つまり、「君が僕に好かれているか不安である」ことが前提なんだ。

 面白いだろう?

 だって好かれるかどうか、不安だったのは僕のはずだったのにさ。

 「きっと僕は嫌われてしまう」と無意識に思っている僕は、それに気づかないまま「君が嫌われないように安心させる」という行動を取るんだよ。

 そう、僕が嫌われないようにしているつもりの会話だが、実際には「君が僕に嫌われていると思わないようにする会話」なんだ。

 君がもし、僕に好かれるかどうか不安になっていなかったら、なんの意味もないのさ。

 君が「僕にどうしても好かれたい」と思っていてくれないと、なんの意味もないんだ。

 つまりどうなると思う?

 結論として、「既に君は僕のことを好きである。」となるんだ。

 この会話は、君を好きな僕ではなく…

 僕のことが好きな君を安心させてあげるための会話

 なんだよ。

 好きだと言いながら、自分が好かれている方の立場で接している。

 だからナルシストなんだ。

 気づいたら、きっと仰天なのだろうね。

 今までずっと、腰を低くしているつもりでそうしてきたのだから。

 自分が下どころか、上から目線でいたのだから。

 周りからは、そう見えているのだから。

 

 恐ろしいね。結果を変えよう、操作しようなんて、思うものじゃないな。

 すべては自然のままに。

 人は自分を写す鏡ってやつだ。

 不気味なほどに。

 

 嫌われたくないと思っているつもりの人は、そのうちこんなことを言いだす。

 あの人にもこの人にも気を使ってきたのに、最後にはこんなことを言いだす。

 「そんなに僕に求めないでくれ!」

 みんなが自分を求めてくる。

 「僕は皆が好きで優しくしてきたのに、そんな僕にみんなは嫌なことをする。」

 そんな酷いみんなが嫌い。僕は酷い目に遭っている。

 となるのさ。

 だが、実際には違う。当然だ。

 本当の心の中はこうだ。

 「僕は自分が嫌い。皆と仲良くしたいけど、仲良くなれるわけがない。」

 こんな僕では、好かれない。

 全てはそこから始まるのさ。

 

 面白いだろう?この仕組み。

 どうしたらいいと思う?

 たまには自分で考えな。

 思考を繰り返さないと、脳が退化していくぜ。

 

君の友人 最上 雄基