子供は母親の心の世界で育ちます。
母親の想像力、心に描く世界は子供の生きる世界になります。
その想像の世界がとても素敵な世界になっているお母さんがいました。
まだ三歳くらいの女の子と、そのお母さんが電車に乗っていました。
サンタさんの話をしていました。
女の子は、サンタさんはどこから来るのかとお母さんに聞きました。
お母さんは、「うちには煙突がないから、玄関かな」と答えます。
すると女の子、玄関には物が置いてあって入って来られないかもしれないから、「ママちゃんとどかしておいてね!」と命じました。
「でもパパが帰ってくるから、それからにするね?」
とお母さん。
そして、サンタさんの侵入経路を確保するようひとしきり確認して命じた後、女の子は聞きました。
「ママ、サンタさんってどうやってくるのかなあ?どこにいるのかなあ?」
子供がいつか必ず聞いてくるようなこの質問に、お母さんはこう言いました。
「実はね、ママもサンタさんに会ったことはないんだ。いつも起きたらプレゼントが置いてあったの。だからママもサンタさんがどうやってどこから来るのか、知らないの。」
「そっかー、ママもしらないのかー。」
こうして、女の子の不思議なことが起きる世界は守られました。
その後も、女の子が「こうかもしれない」「きっとこうだとおもう」と考えたことを述べる度、お母さんは「そうかもしれないね」「なるほど、確かにそうだね!」と子供の想像する世界を共に見ていました。
なんて素敵なお母さんだろう、と横で聞いていた僕は感動しました。
わからないことがある。謎のある世界です。
子供は疑問を持って、しかし夢のある世界を壊すことなく、お母さんの優しい想像の世界で育つでしょう。
子供はいろんなことを不思議に思って、それを確認しようとして、試行錯誤します。
楽しいこと、夢が広がるお母さんの想像の世界で育っていきます。
現実など、教えなくてもそのうち気づく日が来ます。
それまでしか夢は見られません。
それでも、現実に気づいた時に、そこには母の愛が残るでしょう。
その親子の会話を聞きながら、僕も娘のために友達に協力してもらって、あれこれ小芝居をして不思議な世界を守ったものだと懐かしく思いました。
子供の世界は心の世界です。
気分で生きているようなものですから、そこに「ただの事実」は要りません。
子供が知るものだけで構成された、怖くない、不安がない、でもわからないことも不思議なことも沢山ある世界。
年齢に応じて、知るべき世界があります。
少しずつ少しずつです。
しかし最初にこんな素敵な世界を体験した子は、きっと幸せになるだろうと思いました。
なんて素敵なお母さんでしょう。
世界は救われた、という気分になり僕も幸せになりました。
お母さんが辛い現実を生きながら、現実を乗り越えながら、心の中に作ってきた想像の世界が、子供の人生を救います。