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運命の境界線を超えた勇気

 今回は、神経症者が世界の境界線を超える時に酷似した現象を映像化した作品を紹介したい。

 STARTREK TNG season4 “Remember Me”  邦題「恐怖のワープバブル」

 アメリカの国民的人気SFドラマ、スタートレック ネクストジェネレーションの一作である。

 その昔、日本では「宇宙大作戦」という邦題でテレビ放送されていたドラマシリーズの次世代シリーズとして世界でも人気を博している。

 かなり古い作品だが、動画サイトで全話配信されているので簡単に視聴できる。

 この作品自体を僕はお勧めしたい。
 宇宙船を舞台に繰り広げられるSFドラマでありながら、非常に人間的、哲学的なことに重点を起き、人間ドラマが主軸となって毎回の作品が独立したストーリーとなっている。

 一作一作が映画のような作品である。

 「人間」「人生」「差別」「偏見」「恋愛」「親子」「友情」「仕事」「文化」「歴史」

 様々なことについて考えさせられる作品で、特に答えが出ないまま終わる作品も多い。

 「ただ起きている実際のドラマ」を観て、考えさせられることが非常に多いドラマである。

 観ているだけで何も考えずに終わる作品とは違い、感覚だけが残り、考えずにはいられない、素晴らしいドラマシリーズだ。

 これを観ていると、本質的にはみな人間だから似たようなことがどこの国でもあるものなのだなとよくわかる。

 そして、神経症を通り越した存在、アンドロイドの「データ少佐」という士官が非常に興味深いキャラクターである。

 能力は人間を遥かに超えるが、感情が無い。

 人間になりたいという夢を持ち、常に人間を観察しながら模倣している。

 彼が真剣に人間を模倣する様は時に滑稽で笑いを誘う。

 「冗談がわからない」

 これが彼の課題のひとつである。理屈で何が面白いのか考えて理解しても、その場で笑うことはできない。

 「これこれがこうなったから、今起きたことは面白いのだ」

 そのような理解をして、「笑う真似」をするのだ。神経症的行動と呼べるが、人間ではないので「ロボットなんだな」という理解になるだろう。

 だが、段々と完璧人間を目指した人々が彼に近づいてきていることは、言うまでもない。

 そして、完璧な能力を備えたアンドロイドのデータ少佐は「感情が無い」ことに悩まなくてはならないのだ。

 彼こそ神経症者が欲しかったものを全て持っている存在であるが、我々が捨てている「感情」を誰よりも欲しているのである。人間の矛盾をそのまま突き付けている存在だと言える。

 そしてこのドラマには様々な異星人や人種が登場するが、「24世紀になり既に地球人は戦争をやめ理解し合うことに成功した」という設定が素晴らしい。

 どう理解しあっているのか、どう争いをやめたのか、今後我々が平和的に生きていく参考になるのではないかと思う。

 そのドラマの中で、今回紹介したいのは先に書いたタイトルの一作である。

 参考になる作品は多々あるが、視聴しつつ確認している中でこれはと思ったのが今回紹介する「Rwmember Me」である。

 邦題は「恐怖のワープ・バブル」。

 主人公たちの乗る宇宙戦艦、エンタープライズ号に乗船する士官の一人であるドクターが、「どんどんクルーが消えて行く」という怪現象に遭遇する話である。
 しかも、自分以外のクルーたちはそれに気づいていない。「最初からそうだった」と言う。

 たった一人、どんどん周囲の人たちが消えて行く現象に見舞われながら戦うドクター。
 必死で訴えるが、周囲からは段々と「ドクターの方が正常ではない」と思われていく。

 なんとか皆が消えて行く原因を突き止め、また消えたクルーを救出しなくては、と必死になるドクターだが、甲斐もなくクルーたちはどんどん消えて行く。

 途中、艦内に現れる竜巻現象にも襲われながら、生き残りをかけて戦う。

 「誰も私をわかってくれない。」

 そのような状態で、孤立していくのである。

 「本当なの!信じて!」

 訴えても訴えても、記録を確認してもドクターが言う話の根拠がない。

 1,000人以上いたクルーが300人を切っても、みな口々に「最初からこうだった」と言う。

 なんとか「ワープバブル」という現象が原因でそこに吸い込まれて消えてしまったのではないかという仮説にたどり着く。
 しかし、クルーが消えた原因と言える事実が発見されない。

 原因を探すうちに、ドクターは気づく。全員が消え、たった一人になって気づく。

 「消えてしまっているのは私の方ではないか?」

 皆が消えたのではなく、私が一人で消えて行ったのではないか?

 「吸い込まれて消えたのは、私の方ではないか?」

 皆が信じてくれない。私がおかしいのか?だがそうではない。

 では皆がおかしいのか?それも違う。

 誰が正しいのかの論争の先にある、「発見した現象により消えたのが私の方なのだ」という結論に到達する。

 現実の世界では「消えたドクター」を救出するためにクルーたちが力を尽くしていた。

 その現象を理解する「旅人」と呼ばれる異星人が説明する。

 ドクターは「自分で作り出した認識の世界に存在している」と。

 そして「ドクターが作った認識の世界には入ることはできない」とも言う。

 ドクターが作った認識の世界と現実の世界を繋ぐ道を用意すれば、そこから脱することが可能だと旅人は言う。

 その理論から作られた「救いの道」が、ドクターが吸い込まれないように逃げ回っていた「竜巻現象」だったのだ。

 「吸い込まれたら死んでしまう!」と思って逃げ回っていた竜巻現象。

 「信じてもらわなくては死んでしまう!」と思って訴えていた自分の認識で作り出したクルーたち。

 最終的には、たった一人になって考え、発想を逆転させて答えにたどり着いた。

 そして勇気を出して、どんどん消えて行く「認識の世界」から脱するため竜巻に飛び込んでいく。

 外から自分を助けようとしてくれているのだと信じて、逃げ回っていた竜巻に飛び込んで行ったのだ。

 

 吸い込まれた向こうにある世界は、現実の仲間たちがいる元のエンタープライズ号だった。

 

 危険だと感じているものに飛び込んでいく勇気は、ナルシシズムの境界線を超える時にそっくりだった。

 「今までの認識を逆転させた」

 世界ごと逆転させ、自分の認識している自分の存在を逆転させて見てみたのだ。

 誰が正しいかおかしいかと争っている時は、世界を逆立ちして見てみればいい。

 今まで逆さまに歩いていることが、本当にあるのだから。