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母親の憎しみが娘の人生を作る

 こんな親子がいる。よくいる。

 母親は少女の夢を抱いて、理想を思い描いて結婚した。

 「女の子はこうあるべき」
 その通りにした母親は、そうすればきっといつか素敵なことが起きると思った。

 理想を投影して結婚した結果、全く違う人生が待っていた。

 「私はこんなに頑張ってきたのに」

 そして娘に言う。

 「女の子はやっぱりこうでなきゃね」
 「あなたは女の子なんだから、こうしないと」
 「こういう男はダメ、やっぱり男はこれこれな人にしないとね」

 あれはダメ、これはダメ、やっぱりこうでないと。

 言いたいことはこれだ。

 「こんなに素敵な女の子の私に優しくしないなんて許せない、あの人は酷い男だ」

 優しくしない、酷い、かどうかはわからない。

 少なくとも母親の予想とは違った。
 だが父親は最初からその人である。おかしなことは起きていない。

 相手がどんな男であろうと、「私がこれをしたら、こうしてくれる」という決まりごとがあると母親は思っている。

 自分が決まったことをすると、他人が決まった反応をする。
 そんな魔法のようなことが起きると信じていた。

 それが全く起きない。

 我慢している怒りや憎しみは、娘に伝授される。

 こうしないと、ああでないと。

 娘の人生を操作する。
 心の中に娘はいない。

 「どうしてこんなことになってしまったんだろう」

 どこかで虚しさを抱えているのに、それを見ないように娘に言い聞かせる。

 「私は女の子が欲しかったの!あなたが生まれてくれて本当にうれしかったのよ!」

 「やっぱり女の子はいいわね。楽しみが増えるわ。」

 遠回しにいつも伝えてくる。

 男なんて。結婚なんてするもんじゃない。

 娘の人生にちょっかいを出して気を紛らわせている母。過干渉。

 自分の夫と向き合いたくない。この結婚になんの意味があるのか考えたくない。

 「これが私の人生の結婚なのだ」と自覚したくない。


 女はこうあるべき!私はそれに従った!我慢して頑張った!

 娘をバカにして自分はできる女だと優越感に浸る。

 「あなたはダメねえ。本当に不器用なんだから。お母さんに貸して御覧なさい。」

 娘と比較して優越感に浸り、「こんなにできる私なのに」と余計に恨めしさが増す。


 母親の脳内に娘はいない。

 過去を思い出しながら生きている。

 そして娘は言われた通りに受け取り、従っているつもりで生きる。

 言いつけを守っているつもりで生きる。


 母親の夢が破れた腹いせに、娘は同じ人生を生きる。


 娘を見ている限り、母親は過去と向き合わずに済む。

 娘の人生を監督として生きる限り、自分の人生について考えずに済む。


 主演は娘、監督もシナリオも母。

 娘は母親と同じく言うとおりにしていればなんとかなるのだと思っている。

 しかし、母親の言うことを聞くのは娘だけ。

 他人は自分の母親の言うことなど知らないし、母親の主観的世界に生きているのは娘だけである。


 つまり、娘だけがただ言うとおりに動いているだけであって、他人の中には「母が話す世界の人」は誰もいない。

 母の言うとおりの世界に暮らしているのは、母と自分だけである。

 外には知らない人しかいない。

 そして母も娘を見ていない。

 母が見ているのは自分の過去だけ。

 「どうして私を見てくれないの」と過去を嘆きつつ、自分を見ている存在には気づかない。

 「お母さん、お母さん、どうしたらいいの?」


 「もう大人なんだから自分で考えなさい、いつまでもお母さんに聞かないで!」


 この夢の続きは、無い。